PUFA欠乏とADとの関係

HR-AD誘発AD症状の発症原因を解明するため、我々は、まず、通常飼料を混合したHR-ADを給餌した場合の影響を調べました。その結果、10%通常飼料を混合したHR-ADの摂食によりAD症状の発症が抑制されました。したがって,本AD症状は、HR-AD中の何らかの栄養成分の過剰ではなく欠乏に起因すると考えられました。そこで、通常飼料に比してHR-ADで欠乏している種々ミネラル及びビタミン (Mg, cobalt, choline, folic acid, inositol及びnicotinic acid) の関与を検討しましたが、これらの成分の補充は、いずれもAD症状を抑制しませんでした1)

HR-ADは通常飼料 (F-2) に比べて脂肪成分が少ないことから、体内で生合成できない多価不飽和脂肪酸 (PUFA) の欠乏が関与するのではと推測しました。血清中脂肪酸を測定したところ、HR-ADマウスでは、n-6系PUFAであるリノール酸およびn-3系PUFAであるαリノレン酸、ならびにそれらの代謝物が著しく低値を示しました。次に、リノール酸とαリノレン酸の欠乏がAD症状の発症に寄与するのか明らかにするため、F-2に含有されている量と同量のリノール酸 (25 g/kg diet) もしくはαリノレン酸 (2.3 g/kg diet) をHR-ADに添加した際の影響を検討したところ、リノール酸の添加によりAD発症が完全に抑制されました。さらに、リノール酸と代謝物のどちらの欠乏が皮膚炎症状の発現に関与するのか検討するため、リノール酸の代謝物であるγリノレン酸およびアラキドン酸投与の影響を検討したところ、γリノレン酸およびアラキドン酸の投与によっても血清中および皮膚組織中にリノール酸の増加を伴うことなく、AD症状が寛解しました2)。以上から、HR-AD誘発AD症状の発症にリノール酸とその代謝物の欠乏が関与することが示されました2)

papers

n-3系PUFAの欠乏とAD症状、とくに皮膚バリア機能異常に及ぼす影響を検討するため、エパデール® (エイコサペンタエン酸エチルエステル、EPA-E) の効果を検証しました。EPA-EをHR-ADマウスに600もしくは3000 mg/kgで1日1回14日間経口投与すると、皮膚バリア機能および掻痒様行動が著明に改善されました。また、皮膚角質層における脂質の解析から、HR-ADマウスでは、AD患者と同様に、角化膜結合性のセラミドが著しく低下しており、EPA-Eの投与で回復することがわかりました3)

papers

角化膜結合性セラミドは、表皮が分化する過程で生合成されるオメガヒドロキシセラミド (アシルセラミド) が、角質細胞に共有結合したものであり、皮膚バリア形成において必須の役割を果たすことが知られています4)。通常、アシルセラミドのオメガ位にはリノール酸が結合しており、角質細胞に結合するのに重要な役目を果たしています。一方、我々が得た知見では、PUFA欠乏によるAD病態において一部のPUFA (γリノレン酸、アラキドン酸やEPA) がリノール酸の増加を伴わずアシルセラミドおよび角化膜セラミドを増加させること、また、皮膚バリア機能を顕著に改善させることを見出しています。しかし一方で、PUFAは様々な生理活性物質に代謝されるため、PUFAそのものが作用しているのか、または何らかの生理活性代謝物が作用しているのかは明らかではありません。現在、PUFAがどのようなメカニズムで皮膚バリア機能を改善させるのか、さらに検討を行っています。

参考文献

  • 1) Fujii M., Tomozawa J., Mizutani N., Nabe T., Danno K., Kohno S.* Atopic dermatitis-like pruritic skin inflammation caused by feeding a special diet to HR-1 hairless mice. Exp. Dermatol., 14, 460–468 (2005)
  • 2) Fujii M.*, Nakashima H., Tomozawa J., Shimazaki Y., Ohyanagi C., Kawaguchi N., Ohya S., Kohno S., Nabe T. Deficiency of n-6 polyunsaturated fatty acids is mainly responsible for atopic dermatitis-like pruritic skin inflammation in special diet-fed hairless mice. Exp. Dermatol., 22, 272–277 (2013)
  • 3) Fujii M.*, Ohyanagi C., Kawaguchi N., Matsuda H., Miyamoto Y., Ohya S., Nabe T. Eicosapentaenoic acid ethyl ester ameliorates atopic dermatitis-like symptoms in special diet-fed hairless mice, partly by restoring covalently bound ceramides in the stratum corneum. Exp. Dermatol., 27, 837–840 (2018)
  • 4) Uchida Y.*, Holleran W.M. Omega-O-acylceramide, a lipid essential for mammalian survival. J. Dermatol. Sci., 51, 77–87 (2008)

ページのトップへ戻る