マスト細胞に発現するGタンパク質共役型受容体

Mrgprファミリー:IgE非依存性脱顆粒応答に関わるGタンパク質共役型受容体

マスト細胞は様々な炎症性疾患に関与することが知られていますが、IgE-アレルゲンという組合せでマスト細胞が活性化するケースばかりではありません。マスト細胞上の受容体をリガンドが直接刺激することによる活性化は、IgE非依存的な炎症応答におけるマスト細胞の機能を理解する上で重要です。従来の研究から、IgE非依存的な刺激による脱顆粒応答は、1)成熟マスト細胞でのみ認められる、2)百日咳毒素の前処理で抑制される、ことが明らかになっていました。成熟マスト細胞の適切な培養モデルがなかったことから、1)の制約は研究の進展を大きく遅らせることとなりました。2)はGタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor, GPCR)が標的受容体であることを示唆するものですが、こちらも長い間具体的な分子は不明でした。

IgE mast

オーファンGPCRであるMrgprファミリーは、知覚神経に特異的に発現するGPCRとして同定されましたが、このうちMrgprX2というサブタイプがマスト細胞に発現しており、いくつかのマスト細胞脱顆粒促進物質(mast cell secretagogues)によって活性化されることが報告されました。また、マウスのオルソログのひとつであるMrgprB2の欠損マウスではIgE非依存的な偽アレルギー応答が消失することが示されました。これらの知見は、Mrgprファミリーがマスト細胞のIgE非依存的な脱顆粒応答の有力な標的分子であることを示しています。私たちはマウスの皮膚型マスト細胞のモデルを確立しましたが、このモデルにおいても成熟過程でMrgprファミリーが誘導されることを見出しています。

参考文献

  • Tatemoto, K. et al., Immunoglobulin E-independent activation of mast cell is mediated by Mrg receptors. Biochem. Biophys. Res. Commun., 349, 1322-1328, 2006
  • Solinski, H.J. et al., Pharmacology and signaling of MAS-related G protein-coupled receptors. Pharmacol. Rev. 66, 570-597, 2014
  • McNeil, B.D. et al., Identification of a mast-cell-specific receptor crucial for pseudo-allergic drug reactions. Nature, 519, 237-241, 2015

GPR35:マスト細胞の脱顆粒応答を抑制するGタンパク質共役型受容体

GPR35クロモグリク酸ナトリウム(DSCG)は副作用の少ない優れた抗アレルギー薬として知られていますが、その標的分子は長い間明らかではありませんでした。近年、オーファンGPCRのGPR35のリガンド解析から、マスト細胞安定化剤(mast cell stabilizer)として知られるいくつかの化合物がGPR35のアゴニストであることが明らかになりました。GPR35については親和性の高い特異的なリガンドが開発されていないことから、研究が進展していません。私たちは、工学院大学の松野研司博士との共同研究を通じて、親和性の高いアゴニストの開発に成功しています。GPR35はGWAS解析を通じて炎症性腸疾患やⅡ型糖尿病との関連性が示唆されており、アレルギーに加えてこれらの慢性疾患に対する新たな治療薬の開発に貢献することを目標としています。

「複素化合物又はその塩、GPR35作動薬及び医薬組成物」特願2018-46961、出願人:学校法人工学院大学、国立大学法人岡山大学、発明者:松野研司、大野修、田中智之、古田和幸

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