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![２. v-Srcによる細胞形質転換に細胞分裂への影響が関与する
Src型チロシンキナーゼは増殖因子刺激による受容体の活性化などにより活性化するタンパク質チロシンリン酸化酵素であり、細胞増殖、生存、接着、遊走、分化などの制御に関わります。大腸がんや乳がん細胞においてSrcの発現亢進、活性化が知られており、がん悪性化にも関与します。Srcは、SH2ドメイン、SH3ドメインを介した分子内の相互作用により閉じた構造（クローズドコンフォメーション）を取ると不活性化型になり、開いた構造（オープンコンフォメーション）になると活性化型となります。この構造変換を担うのが、C末端に存在するチロシン残基です。Cskキナーゼによりリン酸化されるとSH2ドメインと結合してクローズドコンフォメーションとなります。
v-Srcは、rous肉腫ウイルスから同定されたがん遺伝子で、C末端のチロシン残基が欠損しているため恒常的に活性化しています。ニワトリ由来の遺伝子が変異したもので、恒常的に活性化されたSrcのモデルとして広く研究に使われています。NIH3T3細胞に発現させると形質転換しコロニー形成、足場非依存の増殖など、がん細胞の性質を示すようになります。v-Srcの形質転換作用は疑いようもありませんが、実験的にv-Src遺伝子をNIH3T3、HCT116、HeLa S3細胞に導入すると細胞増殖が抑制されました[1]。すなわち、v-Srcによる増殖シグナル、生存シグナルの活性化だけでは、v-Srcの形質転換作用は説明できないことがわかります。
私たちは、v-Src発現細胞が多核化することに気付き、細胞分裂に対するv-Srcの影響を解析しました。v-Srcは、Aurora Bのミッドゾーン局在を減少させ細胞質分裂失敗により多核細胞を形成させます[1,2]。また、CDK1の抑制性のチロシン残基Tyr15を直接リン酸化し早期の細胞分裂終了(mitotic slippage)を引き起こし[3]、その結果、倍加細胞が形成します。また、細胞分裂後期/終期において細胞間架橋(chromosome bridge)が形成すると[4]、より多く細胞質分裂の失敗につながります。さらに、v-SrcはHippo経路を抑制し多核細胞の細胞周期停止を解除して多極紡錘体を形成させること[5,6]など、v-Srcによる細胞分裂異常を報告してきました。すなわち、v-Srcは、増殖シグナル、生存シグナルの活性化に加え、細胞分裂異常を介して染色体不安定性を生じさせ細胞を形質転換する可能性が示唆されます。さらに、v-Src発現細胞は、細胞分裂停止を作用機序とするパクリタキセルなどの抗がん剤に対し低感受性であることも報告しました[7]。このことは、Src活性が亢進しているようながん種において、これらの抗がん剤の使用は注意を有することを示しています。
これまでの実験結果をふまえ、v-Srcによる細胞分裂異常により形成した倍加細胞において、どのような遺伝子の変化・変異が形質転換に関わるのか明らかにしたいと考えています。さらに、細胞分裂への影響を足掛かりとし、どのような抗がん剤が有効なのかについても検討していきます。
[1] S. Soeda, Y. Nakayama, T. Honda, A. Aoki, N. Tamura, K. Abe, Y. Fukumoto, N. Yamaguchi, v-Src causes delocalization of Mklp1, Aurora B, and INCENP from the spindle midzone during cytokinesis failure., Exp. Cell Res. 319 (2013) 1382–97. https://doi.org/10.1016/j.yexcr.2013.02.023.
[2] Y. Nakayama, S. Soeda, M. Ikeuchi, K. Kakae, N. Yamaguchi, Cytokinesis failure leading to chromosome instability in v-Src-induced oncogenesis, Int. J. Mol. Sci. 18 (2017) 811. https://doi.org/10.3390/ijms18040811.
[3] M. Horiuchi, T. Kuga, Y. Saito, M. Nagano, J. Adachi, T. Tomonaga, N. Yamaguchi, Y. Nakayama, The tyrosine kinase v-Src causes mitotic slippage by phosphorylating an inhibitory tyrosine residue of Cdk1., J. Biol. Chem. 293 (2018) 15524–15537. https://doi.org/10.1074/jbc.RA118.002784.
[4] M. Ikeuchi, Y. Fukumoto, T. Honda, T. Kuga, Y. Saito, N. Yamaguchi, Y. Nakayama, V-Src causes chromosome bridges in a caffeine-sensitive manner by generating DNA damage, Int. J. Mol. Sci. 17 (2016). https://doi.org/10.3390/ijms17060871.
[5] K. Kakae, M. Ikeuchi, T. Kuga, Y. Saito, N. Yamaguchi, Y. Nakayama, v-Src-induced nuclear localization of YAP is involved in multipolar spindle formation in tetraploid cells, Cell. Signal. 30 (2017) 19–29. https://doi.org/10.1016/j.cellsig.2016.11.014.
[6] M. Ikeuchi, R. Yuki, Y. Saito, Y. Nakayama, The tumor suppressor LATS2 reduces v-Src-induced membrane blebs in a kinase activity-independent manner, FASEB J. 35 (2021) 1–20. https://doi.org/10.1096/fj.202001909R.
[7] R. Yuki, M. Hagino, S. Ueno, T. Kuga, Y. Saito, Y. Fukumoto, N. Yamaguchi, N. Yamaguchi, Y. Nakayama, The tyrosine kinase v-Src modifies cytotoxicities of anticancer drugs targeting cell division, J. Cell. Mol. Med. (2021) 1677–1687. https://doi.org/10.1111/jcmm.16270.](yan_jiu_nei_rong_1_files/shapeimage_2.png)
