分野希望の3年次生へ

分野:
薬物動態学分野Department of Pharmacokinetics
科目:
総合薬学研究・演習
教員:
栄田 敏之 教授、伊藤 由佳子 講師、河渕 真治 助教

総合薬学研究の概要

総合薬学研究の概要

 医薬品を投薬することによって、全ての患者さんで、症状が軽快したり病気が治癒したりすると思われがちですが、実際には、治療効果に優れる患者さんも、思ったような治療効果が得られない患者さんもおられます。また、医薬品には副作用というマイナスの側面もあって、副作用がない患者さんも、強い副作用を認める患者さんもおられます。「医薬品と患者さんの相性」で考えれば分かり易いかも知れません。私たちは、治療効果を確保しながら副作用が起こらない、そのような薬物治療の実現を夢見ています。
 さて、どうすればそのような事ができるでしょうか。第1には、副作用起こらない医薬品を開発することです。しかしながら、これは不可能に近いことのようです。第2には、患者さんに相性の良い医薬品を選択し、最適な方法で投薬することです。現在、世界中の医療機関で研究が実施されており、患者さんの遺伝子型や病巣におけるタンパク質の量などを指標に、医薬品との相性や投与方法が決定できるか否かを模索しています。このような医療をテーラーメイド医療といい、新聞等でもたびたび取り上げられています。第3には、医薬品を投薬してからの薬物の体内における動き方を明らにすることです。ちなみに、薬の体内における動き方を薬物動態といい、我々の分野名になっています。薬物動態を決める患者さんの要因(年齢、性別、体重…)が明らかになれば、患者さん個々に、治療効果を確保しながら副作用が起こらない投与計画の構築が可能となります。第4には、製剤学的な工夫を施すことによって、薬物動態をより理想的なものに操作することです。
 我々の分野では、現在、以下のテーマで研究を行っています。

1)薬物治療の最適化を目指した橋渡し研究

 薬物治療の用法用量は臨床試験の結果に基づいて決定されます。臨床試験には遵守すべきルールがありますが、こうして決定された用法用量が、最適な薬物治療の提供に必ずしも結びつきません。例えば、1日3回投与される一部の抗菌薬について、より優れた治療効果を得る用法用量が別に設定できることが、最近になってようやく明らかにされました。これは医薬品の市販後の基礎研究によるものです。また、抗がん剤については、経験豊富な医療機関で決定された用法用量と手順(プロトコールといいます)に従って投与されますが、より優れた治療成績を得るプロトコールが存在するか否かは不明です。我々は、抗菌薬や抗がん剤などを対象に、医療機関との共同研究体制を構築して、臨床研究結果に基づいて基礎研究を、また基礎研究結果に基づいて臨床研究を行い、薬物治療の最適化を目指しています。

2)抗がん剤、経口血糖降下薬などのPK-PDに関する研究

 分子量などの薬物側の要因と臓器血流速度などの生体側の要因が複雑に関連して、薬物の血液中の濃度推移(薬物血中濃度推移)が決定し、薬物血中濃度推移に応じて薬物の治療効果、副作用が決定します。一連の関係をPK-PDといいます。我々は、抗がん剤、経口血糖降下薬などを対象に、血中濃度と治療効果、副作用との関係を明らかにしています。

3)薬物の血管外組織への移行特性に関する研究

 薬物の作用部位以外の臓器への移行性が薬物の副作用に少なからず関わっています。臓器移行性の評価法としては、臓器を摘出して、全体の濃度を測定する方法が一般的ですが、この方法では細かな動態がわかりません。我々は、血管内から血管外組織への移行性を評価できる方法を見出しており、薬物の血管外組織への移行特性に関して基礎的な知見の収集を行います。

総合薬学研究の具体的な内容

総合薬学研究の具体的な内容

 当分野では1人に1テーマとします。候補となるテーマを提示しますので、興味の引くものを選択していただきます。5年次終了までに、少なくとも1回、学会で口頭発表することを目標としています。ということは、4年次前期終了時までに、ある程度のテータを得ておく必要があります。具体的には、薬物をマウスやラットに投与、血液あるいは臓器を採取して、薬物濃度をHPLCやLC/MS/MSで測定します。必要に応じて、測定法の開発も行います。配属当初は教員や先輩からスキルを教わりますが、安定したデータが得られるようになったら、自身で計画して自身で進めていただきます。自由ですが結構忙しいと思います。また、研究とは別途、概ね週1回で開催されるセミナーで英語の論文を紹介して頂きます。

総合薬学演習の概要・具体的な内容(2011年度以前入学生のみ対象)

総合薬学演習の概要・具体的な内容(2011年度以前入学生のみ対象)

 1人に1テーマという点では総合薬学研究と同じです。医療機関との共同研究体制を構築しておりますので、それに関連してデータファイルを作成し、あるいはそれに関連する情報を入手して、まとめていただきます。セミナーでの発表も行います。生物統計スキルの習得も目指します。

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