本文へスキップ

 The Garden of Medicinal Plants,KPU

FFD: Floral Fluorescence Database

There is no science without fancy, and no art without facts.
Vladimir Nabokov (1899-1977)

English version

当サイトに掲載されている写真の私的利用ならびに教育以外を目的とする利用の場合は、事前に右記連絡先からご連絡ください。いずれの場合も当サイトURLは引用のこと。


1. はじめに
 下の写真は、それぞれ紫外線下と可視光線下で撮影したアザミの花です。このように多くの植物の花粉や葯が、紫外線の下で美しい蛍光を発します。このページでは福井宏至(香川大学名誉教授、1941-2013)が撮影した600種余りの植物の写真を掲載しています。

ノアザミ(キク科)Cirsium japonicum

















下の索引から、植物名を検索してみてください。

索 引


分類体系はAPGVに基づいています。
参考:米倉浩司・梶田忠(2003-)「BG Plants 和名―学名インデックス」(YList), http://ylist.info

2. 花粉はなぜ蛍光を発する?
 花粉や葯はなぜ蛍光を発するのでしょうか。なぜ花弁や雌蕊は蛍光を示さないのでしょうか。その理由として、以下の2つが考えられます。
 1つ目は、花粉に含まれる遺伝子の紫外線からの遺伝子保護です。花粉を包む葯は、多くの場合、花の基部から外側へと突き出しています。この構造は、昆虫や風によって運んでもらうためには有利ですが、花粉に含まれる遺伝子は紫外線によって損傷する危険にさらされています。蛍光物質は花粉や葯の表面で紫外線を吸収し蛍光に変換して放出することによって、紫外線の有害エネルギーが花粉内の遺伝子に及ばないようにしていると考えられます。
 2つ目は、送粉昆虫の誘引です。植物が子孫を残し繁栄していくためには、受粉はとても重要です。動物のように自由に身動きの取れない植物は、送粉者に花粉を柱頭まで運んでもらうことで受粉を効率化しています。訪花昆虫が花粉や葯の蛍光を認識して花に誘引されているとすれば、昆虫にとっては食料を見つけやすく、植物にとっては受粉を効率化できるという「相利共生」の関係に蛍光が役立っているのかもしれません。
 植物が昆虫を誘引する手段については、古くから研究が行われており、色、形、匂いなどが知られています。しかし花粉や葯の蛍光を介した誘引というのはこれまでほとんど知られていません。受粉は果実や種子の形成に欠かせないプロセスであり、植物の受粉戦略を理解することは私たちにとっても農業生産や生態系保護の観点から重要な課題です。私たちはこの課題解決のために、花粉や葯の蛍光と昆虫の関係を明らかにする研究に取り組んでいます。このページにある美しい花の写真が科学の世界への入口になることを願っています。

※ 蛍光物質は光を吸収してそのエネルギーによって励起されると、その一部を熱エネルギーとして放出した後、残ったエネルギーを励起光よりも長波長の光に変換して発光することによって基底状態に戻ります。

3. 人間と昆虫の色覚の違い
 人間の眼の視細胞で光を受容する視物質は、青、緑、赤型の3種類から構成されています。一方、ミツバチをはじめとする多くの昆虫の複眼に含まれる視物質は、紫外線、青、緑の3種類から成ります。したがって多くの昆虫には、私たちに見えない紫外線が見え、私たちに見える赤が見えないという色覚の違いがあります。また多くの昆虫は特に青色に誘引されることが知られています。昆虫の見る花の色が人間とはかなり異なるものであることは間違いありません。ここに掲載している写真が、昆虫が視ている花の色そのものとは考えられませんが、太陽光のもとで昆虫が見ている花の色を想像する一助になれば幸いです。

4. 撮影方法
 暗室内で反射しない黒色の布を背景に花を置きます。カメラをスタンドに固定し、まず白色蛍光灯の下で撮影した後、同じ花を紫外線照射下で撮影しました。使用した紫外灯は波長365 nmのブラックライトです。撮影には、主にNikon製の一眼レフカメラD300を使用しました。F値は13から19に設定し、紫外線照射下では数秒から30秒程度、露光して撮影しました。


(福井原文を改編)

 福井 宏至(香川大学名誉教授、1941-2013)

  略歴 1941 京都府福知山市に生まれる
     1970 京都大学 農学研究科修了
     1971 京都大学 農学部 助手
     1971 京都大学 農学博士
     1978 京都大学 薬学部 助教授
     1991 香川大学 農学部 教授
     2005 愛媛大学大学院 連合農学研究科 副研究科長
     2006 team むしのめ 結成
     2007 退職、香川大学名誉教授
     2013 逝去


著書 「植物組織培養による有用物質生産 - 生命工学シリーズV 生命増殖工学」、裳華房、1991年
   「植物細胞培養用のフィルム容器について」、John Wiley & Sons、2000年
   「レタスの一般成分と機能性」、地域農産物の機能性成分総覧、2000年
   「むしのめ - 虫が視る花の色と姿?!」、京都薬科大学薬用植物園、2007年
   「紫外線写真で視る植物の生存力」菅原監修、大東・中井編「眼がとらえた情報がこころにあたえる影響」、
    オフィスエム、2009年
   その他、学術論文総説多数

team むしのめ
     福井 宏至(香川大学名誉教授)、平井 伸博(京都大学農)、森 信之介(京都大学農)、
     後藤 勝実(京都薬科大学薬用植物園)、豊田 順治(クリエイティブ・オフィス)、
     月岡 淳子(京都薬科大学薬用植物園)

京都薬科大学薬用植物園

〒6011405
京都府京都市伏見区日野林39番地

TEL : 075-572-7952
e-mail : gmp@mb.kyoto-phu.ac.jp