▽免疫療法
移植された提供者(ドナー)の免疫細胞が、がん細胞を攻撃することを狙うもので、いわば移植による免疫療法。血液がんだけでなく、固形がんにも効果が期待できるという。 造血幹細胞移植ではまず、通常の数倍から数十倍もの大量の抗がん剤投与や放射線照射でがん細胞を徹底的にたたく「前処置」を行う。これに伴い、造血組織の骨髄も破壊されるため、白血球などの元になる造血幹細胞を移植して補う。 しかし、前処置は骨髄以外にも正常な臓器や組織を痛めつける。患者の負担は大きく、死に至ることもあるほど。このため、移植患者は副作用に耐えられる55歳までと制限され、重い臓器障害のある人も移植は無理だった。
▽マイルドな治療法
この制約を破ってくれそうなのがミニ移植。造血幹細胞と一緒に移植されるリンパ球の方が、前処置の激しい化学療法などよりも、がん細胞を攻撃する力が強いとの最近の研究結果に基づく。前処置を軽く抑え、リンパ球による攻撃(GVL効果)をゆっくり誘導するマイルドな治療法だ。 ただ、移植リンパ球もがん細胞だけでなく正常組織を攻撃するため、免疫抑制剤の微妙なさじ加減など、細心の注意が必要になる。 副作用が軽いため、移植の適応年齢は70歳まで広がると言われている。
造血幹細胞移植は主として白血病や再生不良性貧血に対して行われているが
・「どこからとってきた造血幹細胞か」、
・「だれからとってきた造血幹細胞か」で分類。
・
骨髄から取ってきた造血幹細胞の輸血 → 骨髄移植
末梢血中の造血幹細胞を集めて輸血 → 末梢血幹細胞移植
臍帯血中の造血幹細胞を集めて輸血 → 臍帯血移植
・
自分自身の造血幹細胞を取っておいて輸血 → 自家移植
他人から造血幹細胞をもらって輸血 → 同種移植
自家移植以外は移植前に強力な抗癌剤や放射線照射で自己の骨髄を根絶してから行わないとGVHRにて致命的な結果となりうる。
よって、行える年齢、術前状態が制約される。
1)造血幹細胞移植の種類(ドナーの種類)
〇自家移植(Autologous transplant;Auto)
骨髄破壊的前処置の後の骨髄無形成状態に、あらかじめ採取保存しておいた自己の(骨髄、末梢血)造血幹細胞を輸注して造血を再構築する方法。移植片対宿主病(graft-versus-host
disease;GVHD)がなく、免疫回復が速いので間質性肺炎の合併が少ない利点があるが、移植片中への腫瘍細胞の混入の危険や移植片対白血病 (graft-versus-leukemia;GVL)効果がなく再発率が高い。
〇同種移植(allo;Allogeneic transplant)
悪性腫瘍の治療において、超大量の化学・放射線療法で腫瘍細胞を根絶した後に生じる骨髄無形成状態や、量的・質的異常のある患者の造血幹細胞を、HLA適合donorからの正常な造血幹細胞で、置換して正常な造血能を再構築する方法。移植の際のGVHD
(graft-versus-host disease)に対して免疫抑制剤を投与する。GVL (graft versus leukemia)効果が期待できる。
・ 血縁者(related)
HLA1座不一致まで適応。移植時期の調整が容易で、移植細胞数も十分期待でき、急性GVHDは比較的軽く、GVHD関連疾患も少ないが、GVL効果は期待できる。生着不全はまれで、再移植も可能、再発後のDLI
(donor lymphocyte infusion)は可能である。
・ 非血縁者(unrelated)
骨髄バンクと臍帯血バンクがある。
● 骨髄バンク
ドナーコーディネートに平均220日かかり、移植時期の調整が困難で、移植細胞数が少ないことがある。 HLAはDNA一致が望ましく、急性GVHDは重症に成り易く、関連合併症も多い。良性疾患で生着不全がやや多い。再発後のDLIは現時点では1回だけ可能、GVL効果はHLA一致同胞より強い。
● 臍帯血バンク
ドナーコーディネートに要する期間が短く(平均0.5〜1ヶ月)緊急的移植に対応でき、凍結保存なので移植時期の調整は容易である。造血回復が遅く、生着まで平均20日程度かかり、特に血小板の回復が遅い。良性疾患に拒絶が多いが再移植は不可能。元の臍帯血の量が少ないので、体重の重い患者では移植成績が不良。HLA2座不一致まで適応だが、GVHDの頻度は低く、程度も軽い。児のフォローアップ期間が短く、移植による先天性疾患継承の可能性は未知である。原則としてドナーへの侵襲はないが、臍帯血を採取保存するための多額の費用と設備を必要とする。再発後のDLIは不可能。
2)使用する造血幹細胞の種類・ 骨髄移植(bone marrow transplastation;BMT):採取時に、全身麻酔下での骨髄穿刺(800ml前後)を行うため、4〜5日間の入院を要する。また、前もって自己血輸血を用意する必要がある。ドナー死亡例の報告(心停止・心室細動・アナキラフィシーショック・術後肺塞栓)がある。生着までに要する期間は平均18日程度。患者の方がドナーより体重が重いと、十分な細胞数が得られないことがあるが、移植後長期の造血能の維持に関しては、証明済みである。
・ 末梢血幹細胞移植(peripheral blood stem cell transplantation;PBSCT):採取のために、G-CSFを4〜6日間投与し、1〜3日間のアフェレーシスを行う。そのため、7〜10日間の入院を要する。G-CSFによる短期的な副作用(骨痛・発熱など)が出現したり、アフェレ−シスに伴う低Ca血症や血小板減少が出現することもあり。世界で2例の死亡例(脳血管障害・心停止)の報告あり。ドナーの長期的な安全性については不明。凍結保存できるので、移植時期の調整ができる。ドナーの幹細胞動員効率により、細胞数がまちまち。造血回復は速やかで、生着まで平均14日程度。同種移植では慢性GVHDが多いが、白血病再発が少ない傾向がある。移植後長期の造血能維持できるかどうかは未検証。非血縁者では現在選択不可能である。
末梢血幹細胞
利点・採取をするのに全身麻酔を必要としない。これに関連して繰り返しの採取が可能である。
・自家末梢血幹細胞移植では、自家骨髄移植に比べて造血能の回復が早い。
・ある種の疾患に対しては、同種末梢血幹細胞移植は同種骨髄移植よりも無病生存率がよい (GVLE による効果のため)
問題点
・どんなにがんばっても、移植に必要なだけ末梢血幹細胞を採取できないケースがある。( Poor Mobilizer)・骨髄移植よりも回復が早い
= 骨髄にいる造血幹細胞とは性格が違う→ 本当に恒久的な造血能の回復が得られるのか ? と言う疑問・他人から末梢血幹細胞をもらう場合、ドナー に好中球コロニー刺激因子
( G-CSF、商品名グラン、ノイトロジン、ノイアップなど ) を投与してから採取。「本当に健状人に大量の G-CSF を投与して安全か」と言う問題の回答はまだ得られていない。
臍帯血移植
利点
・完全に HLA が適合していなくても移植できる可能性がある ( HLA 2 座不一致くらいなら移植できる可能性が高い
)・もともと捨てるもの(最近ではそうとは言えないが)で、提供者の負担がほとんどない。・冷蔵庫の中で静かにねむっているだけあり、登録から移植までの時間が短時間で済む。
( 人からもらうことになると、ドナーの都合や採取施設の都合などで日程の調整に時間がかかりますが、臍帯血移植ではこのような時間のロスがほとんどない)
短所・移植後の造血能の回復や免疫能の回復が、骨髄移植や末梢血幹細胞移植に比べてかなり遅い ( 中央値で 白血球
> 500/μl に 30 日程度、血小板 > 20000/μl に 60日程度 )。・採取できる量に限りがあるので 、体の大きいヒトには必要なだけの細胞数を用意できない
( 通常では、患者さんの体重がせいぜい 50kg 程度までが一つの目安、ただし実際には 80kg くらいの患者さんにも行われている )。・大量の臍帯血を保存するのにはお金がかかる
( 普通の冷蔵庫に保存するわけにはいかない )。
(ミニ移植)
同種造血幹細胞移植の目的が、「ドナーの Tcell の働きによる免疫学的な機序に依存した残存腫瘍細胞の駆逐」であるとすれば、「どうせどんなに化学療法・放射線療法を行ったところで、腫瘍細胞が残るのなら、最初から「ドナーの
Tcell の働きによる免疫学的な機序に依存した残存腫瘍細胞の駆逐」だけを目的に治療したらいいのではないか」と言う考え。これまでの同種移植の年齢制限はおもに、同種移植前に行われる化学療法・放射線療法の副作用によるもの。これを軽くし、かつドナーの造血幹細胞が拒絶されないように、患者さんの
Tcell だけを充分に殺しておけば、かなり高齢の患者さんや全身状態があまりよくない患者さんにも同種移植が可能になる。
同種移植前に行われる化学療法・放射線療法 ( = 移植前処置、前処置) を軽くして、患者さんの Tcell
だけを充分に殺して拒絶を防いで移植する方法を「ミニ移植」とか、「非骨髄破壊的前処置 ( Nonmyeloablative preparative
regimen ) による同種移植」などと呼んでいる。このミニ移植では、移植後患者さん自体の造血幹細胞をはじめとする各種の血液細胞と、ドナーの造血幹細胞の両方が患者さんの体に同居している状態が起こる。これを「混合キメラ」と言う。時間が経つにつれ、ドナー由来の
Tcell の働きにより、徐々に患者さん由来の造血幹細胞や腫瘍細胞が死んで行くはず、とゆうより死んで行くようにコントロールする。つまり軽い GVHD
がはじめから起こるようにもくろむ。GVHD を引き起こす方法は上述のとおり、まずは免疫抑制剤を減量する、これで GVHD が起こらなければ、DLI
を行う。
ミニ移植の問題点
まず、完全に確立された方法ではなく、現在その方法が研究途中である。全身状態が良好な若い患者さんでは、ほぼ確立された感のある通常の同種造血幹細胞移植を選ぶのが一般的。「全身状態が通常の移植前処置に耐えられないからミニ移植を選択する」段階では、通常の移植と同じようにリスクを負うと考えるべき。
特に急性白血病などのように、腫瘍の増殖スピードが早い場合は、軽い移植前処置しか行わないミニ移植では、GVLE
発現の前に再発する可能性も低くないと考えられる。
意図的にGVLEを起こすが、当然リスクが大きい。
Toll様受容体
自然免疫は、マクロファージ、樹状細胞などいわゆる抗原提示細胞により担われている。これらの細胞は、遺伝子再構成を行えないので、微生物を特異的に認識はしないと考えられていた。しかし、これらの細胞も、外来微生物を認識できるシステムを有していることが明らかになってきた。この微生物認識に必須の機能分子が、Toll様受容体(Toll-like
receptor, TLR)と呼ばれる一群の膜タンパクである。
動物の細胞表面にある受容体たんぱく質で、種々の病原体を感知して自然免疫を作動させる機能がある。脊椎動物では、獲得免疫が働くためにもToll様受容体などを介した自然免疫の作動が必要である。
Toll様受容体の名前は、ショウジョウバエのTollと呼ばれる膜タンパクに構造が類似していることに由来するToll様受容体は、種々の病原体特有の分子構造の認識に関与する。この分子構造は、個々の病原体に特有というわけではなく、一群の微生物に共通にみとめられる構造である。(病原体成分をパターン認識:異物成分を9種類に分類して認識)そして、これらの構造は、宿主である生体内には発現されていない。すなわち、生体には存在しない構造、他から侵入してきた構造を感知するのがToll様受容体である。Toll様受容体のリガンドは、いずれも免疫応答を強く活性化し、アジュバントとして機能する。最も広く研究されているのは、グラム陰性菌に共通して存在するリポ多糖(lipoplysaccharide:
LPS)である。LPSは、菌体外膜の主成分であり、TLR4により認識される 。
NKT細胞
・抗原受容体(Vα14/Vβ8受容体):NKT細胞は、抗原提示細胞のMHC様分子(CD1d分子)に結合した、糖脂質であるα-ガラクトシルセラミドを抗原として認識して活性化され、IL-4とIFNγを産生。NKT細胞の抗原受容体はαβ鎖から構成されているが、T細胞の抗原受容体(TCR)と異なり、α鎖は、多様性のない1種類のVα14受容体である。
・NK細胞受容体(CD161):NKT細胞は、標的細胞の糖鎖を認識して結合し、標的細胞を傷害する。
・NK細胞と同様に、抑制受容体(MHCクラスT分子受容体)を有しており、MHCクラスI分子を発現した正常細胞は障害しない。
NKT細胞は、NK細胞と比して、抗原受容体の構造が、T細胞に近い点で、進化しているが、ヘルパーT細胞と比べて、サイトカイン産生能が分化しておらず(Th、Tcともに活性化)、原始的と言える。